酒場街の小路を彷徨っていると、物陰に隠れて猫がこちらを見ていた。僕が数歩前に出ると猫はその分だけ後ずさりしていく。猜疑心丸出しの眼で僕を睨んでいる。
「あの顔つきじゃぁ、近づけない」そう悟ると近づくのを止めた。
ゆっくり身をかがめる。猫は直ぐに逃げるに違いない。見失ったら元もこうもない。視界の片隅にヤツの姿を捉えながら別方向の全く興味のない被写体にカメラを向ける。
(猫にお前さんには興味がないんだよ・・と)
静かに振り返り構図を決めて1枚ポチる。その時に一度逃げられた。
逃げ込んだ先は小便臭い路地裏だ。そこは異世界の入り口を思わせるような空間域。俺は足元のガラクタを踏まないよう後を追う。蔦が幽霊の髪の毛のように壁を這っている。
猫は突き当りを右に折れたはず。少し遅れてヌウ~と建物の角から頭を突き出してみた。ヤツがいた。俺が姿を見せると判っていて、そこで待っていたかのようだ。
1枚撮る。垂れた銅線を避けて更に1枚。
ここでジ・エンド。ヤツは異世界の奥へ入り込んでいく。
姿が消えた。
写真
咄嗟に縦位置構図。長い雨水管には逆らえない。
2枚目をポチッた段階でモノクロイメージ、HDR調が頭に浮かんでいる。
9日撮影
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